セルが回らない、エンジンがかからない、原因はこれだったのか!トラック悲劇体験談。

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現役トラック運転手です。

 私は佐川急便のセールスドライバーからはじまって、職業ドライバー経験が25年以上あります。佐川急便の2トン営業ドライバーの後は宅配会社の路線便、大手元請石油タンクローリー、ダンプ、トレーラー、平ボディーなど、様々なトラックに乗って来ました。今も現役で、ダンプや平ボディー、トレーラーに乗っています。プロとして道路に出てトラックに乗っていれば、数々のトラブルは当たり前。今の会社は新車から使い込むのではなく、オークションで買ってきたトラックを使っています。前所有者も自分のトラックだったのでしょうから、大切に使っていたとは思うのですが、トラックも機械ですので、時々壊れてしまいます。経年していればその頻度は高く、状況も考えられないような所に原因がある場合もあります。このような状況ですので、トラッカーあるあるはもちろんのこと、かなりレアな故障までをも経験しています。私の体験が皆様のお役に立てばと思い、こちらでご紹介させていただきます。トラックでのお話ですが、もちろん乗用車をお使いの方にも参考になると思います。

エンジンがかからない

 エンジンがかからないというレベルのトラブルは、それこそ星の数ほど経験しています。プロになりたての佐川急便の頃にも一度あり、当時の私はプロ意識が足りず、JAFに電話してしまいました。もちろん対応してもらえるはずはなく、その後運行管理者と連絡を取って対応しました。
 セルが回らない、エンジンがかからない、という症状は、簡単な処置で対応できる場合もありますが、今回の私のトラックの場合は、かなり重篤な症状です。最終的にはミッションを降ろしての作業が必要となり、修理日数はもとより、修理代金もかなりかかる状況となってしまいました。たかがエンジンがかからない、セルが回らないの裏には、このようなとんどもない症状が隠れている場合がありますので、体験を元にお伝えします。

当初の状況

 このトラックは、退職した人から引き継いだトラックです。前に担当していた人は、以前自分でトラクターを買い、会社にトラック持ち込みで長い間トレーラーの運転手をしていた人でしたので、特にプロペラシャフトや足廻りへのグリスアップがよくなされており、わが社の中でもかなり程度の良い車です。走行距離は約90万キロ。でも、引き継いで早々に、症状が発生してしまいました。私が引き継いで当初感じたことは、エンジンがかかる際のセルモーターの回転に、少し詰まった感じがあるかなぁ、というものです。セルモーターの回転は、バッテリーが弱くなると悪くなります。特に秋から冬に季節が変わる際の冷え込んだ朝などは、寿命の近いバッテリーだと、症状がてきめんに現れます。バッテリーが弱っている場合のセルの回り方は、文字で表現すると「くぃっ、くいっ、くいっ」という感じになります。セルの回転に勢いがなく、その回りは弱いですが、何とか回っているという感じでしょうか。
 一方で、今回体験した症状は、セルモーターが回転する際、何かに詰まる、引っかかっている感じがしました。具体的にはキーをひねった後にセルモーターが回転する訳ですが、この時にセルモーターの回転が少し重い感じがしていました。何かに引っかかって、モーター回転のアクションが遅い、回転が若干しずらいような感じです。しかし、セルモーターが一回転するかしないかで簡単にエンジンが始動していたので、それほど気にも留めてはいませんでした。

更なる状況

 更なる状況として、セルを回した際に、軽めの金属が砕けたような音がしました。気のせいかななどと思いつつ、エンジンは一応かかるので、その後も運行を続けました。しかし、何か気になります。そしてこの時からかだったかははっきりと覚えていませんが、セルを回す時に「シャリッ」という感じの、スプリングか何かが回転するような音が出るようになりました。また、以前からの症状として、ベルトの鳴きがいつまでも収まらない状態が続いていたので、今回は意を決して、修理を依頼することにしました。私が働いている会社は、自社で殆どの整備が可能な工場を併設しているので、この点はとても助かっているのですが、工場があればあったで、やはり毎日のルーティーンを崩してトラックを整備に出すのは少しばかり面倒だな、などと、かなり贅沢な悩みに襲われてしまったりもするのです。

整備依頼一度目

 今の会社では、整備をしてくれる人に直接症状を伝えることができます。今回私は、ベルトの鳴きが収まらない事と、セルモーターの回転が悪くエンジンがかかりにくいという症状を伝え、整備を依頼しました。整備依頼時に実際に症状が出ており、更にセルモーターが回りずらい症状に起因する、焦げ臭いにおいも発生していました。

整備一度目

 この依頼に対して、工場ではまず、ファンベルトを交換、取り換えてくれました。そして12ボルトのバッテリーを2つ繋いで24ボルトにしているケーブルが若干破損していたので、おそらく原因はこれだろうと、このケーブルも取り換えてくれました。ベルトの不良による充電不足と、バッテリーターミナル配線不良によるエンジン始動困難、という診断で、作業は完了しました。

翌日の仕事で

エンジン始動

 翌日は、コンプライアンスのとても厳しい仕事であるということと、新しく現場に入るという事もあり、道具の準備と場内での所作の確認に気を取られ、かなり緊張していました。実際にエンジンを始動した際、修理に出したのに、セルの回転とエンジンが始動するまでの状況は以前とあまり変わらないなという認識はありました。しかし、プロが実際に診断して整備してくれたのだから大丈夫だろうと信じ、その日の仕事に出ました。セルモーターを取り換えてこの状態なら問題がありますが、充電不足なら仕方ない、少し走れば状況は良くなるだろうと思ったのです。
 街中での待機が少しあったので、アイドリングをストップしました。そして現場に向かう際にエンジンを始動しましたが、やはり「セルが重たい感じ」と「セルが引っかかっているような感じ」は改善されていませんでした。現場で受付を済ませ、積み込み場で待機をし、いざ積み込みという際に、症状が発生してしまいました。

エンジンがかからない

 かろうじて回っていたセルが、突然回らなくなりました。しかし電圧計は正常ですし、感覚では、バッテリーが弱っていると思えるような症状は出ていません。私の今までの経験から、バッテリーが弱っているのであれば電圧計が上がりませんし、セルを回そうとすると、カチカチという音がします。しかし今回は、電圧計も上がっている上に、カチカチ音もしません。何度か始動を繰り返しているうちに、モーターが焼き付くような独特の匂いがしてきたのでエンジン始動の操作をやめ、冷静になって会社と現場に連絡を取り、その場所で対応することにしました。

結局エンジンはかからない

 昨日修理してくれた工場の方とも話をし、言われる通りに様々な操作をしてみましたが、結局エンジンは始動しません。このトラックは幸いかな少し古いので、押し掛け、引っ張り掛けができます。更に幸いなことには、現場内はそこそこの広さがあり、しばらくは邪魔にならないであろう形で停まることができました。ここで待機し、同僚が帰ってきたらワイヤーで繋いで引っ張ってもらい、押し掛けでエンジンを掛けて、そのまま仕事をせずに工場へ修理に入るという段取りになりました。このトラックは以前からエンジンの掛かりは良かったことから、引っ張ってもらえば簡単にエンジンはかかるだろうな、と、経験から思いました。
 同僚が帰ってきて、あらかじめ準備しておいたワイヤーを繋ぎ、引っ張ってもらった所、いとも簡単にエンジンが掛かりました。朝に待機した街中の待機場であれば、このようにはいかなかっただろうなと、再び不幸中の幸いかな、この場所での不具合発生と再始動完了に、ほっと胸をなで下ろしました。

再修理

 何とかエンストせずに工場にたどり着き、早速セルモーターの取り外しにかかりました。低床のトラックの場合、下からのセルモーターの取り外しは少々困難な作業となりますが、このダンプトラックは腰の高い部類ですので、作業する工場の方も、回りずらいボルトがあればパイプを使ったりして、セルモーターを外しました。「うわっ、なんだ」メカニックの方が声を発するのと同時に、沢山の細かな金属片がチャリチャリと音を立てて床に落ちてきました。取り外されたセルモーターは熱を持ち、頭のカバー部分は砕けており、線は焼き切れていました。しかし、この落ちてきた細かな部品は何でしょう。金属製の部品が8ミリ四方位の大きさに砕けており、数えたところその数は、およそ30個位ありました。セルモーターにはこのような細かな金属の部品はありません。説明によると、セルモーターの力がエンジンに伝わる所を辿っていくと、途中にクラッチがあるのですが、どうやらそのクラッチのベアリングが砕けてセルモーターに噛んでいたらしいのです。「クラッチおかしくなかった?」整備士さんに聞かれましたが、私が乗り始めて以来、クラッチに異常を感じたことはありませんでした。結局、内部で破損したクラッチのベアリングの部品がセルモーターに噛んだことにより、最終的にセルモーターが壊れて回らなくなった、という症状でした。シャリンというような音がしたことと、セルが重たく感じられていたことが、これで理解できました。

たいていの「セル回らず」は、ここまで酷くはない

 通常、セルが回らずに、エンジンがかからないという症状の場合、ここまで酷くはなりません。バッテリーが弱いか、バッテリーのターミナルと配線の接触が悪いとか、発電機、ダイナモ、オルタネーターが悪いとか、最悪の場合でもセルモーター自体が壊れている場合が殆どです。これらの症状なら、お金はそれなりにかかってしまいますが、どうにか出張作業でもギリギリ修理可能な範囲です。(セルモーター自体の場合は、部品の持ち合わせや故障した箇所との兼ね合いで、要レッカー、即修理できない場合も多いでしょう)しかし今回、私のトラックの症状の場合は、ミッションまで逝ってしまっているので、症状の程度にもよりますが、ミッションを降ろして作業しなければならないのです。トラックは当然自走できませんので、高いレッカー費用が必要になります。加えて、ミッションを降ろすという高額な修理費用と、プラスして最低でも何日かは仕事ができませんので、仕事での損害、補償も発生してしまう場合があるでしょう。今回のケースはたまたま同僚がいる現場でしたので、レッカーを使うことなく、押し掛けができましたし、修理も自社工場で済みましたので、何とか忙しい中をお願いして、トラック、私とも、三日間の休業と、部品代、工賃で済みました。これらを全てディーラー経由でお願いした場合は、それこそもっと多くの日数プラス、請求が来てびっくり仰天、場合によっては一か月分の水揚げが吹っ飛んでしまう位の価格になってしまうかもしれません。

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