生ハンドルって何? 美味しいの?
これから暑くなってくると、私たち運転手は注意するべきことがまた一つ増えます。「生ハンドル」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?「生」がついているので、食べものですか、という声が聞こえてきそうですが、食べ物ではありません。正解は、運転操作において、その場でハンドルをぐるぐると回すことです。あなたはこの操作を、乗用車で普通に行いますか?乗用車なら問題ないのですが、トラックだと、ちょっとややこしいことになる場合があるのです。だから、「生ハンドル」なのです。
トラックは重い
私もそうですが、トラックの運転を長い間していると、自分がトラックを運転していることを忘れてしまいます。乗用車に乗っているのと同じ感覚になってしまう時もあります。車幅や荷物に関することなら忘れようもないのですが、両足や両手で行う操作を思い込みで行ってしまうと危険な場合や、事故に繋がってしまう場合がありますので、注意が必要です。その最たるものが、重量物を積んでいるトラックでのハンドル操作です。トラックは重たい荷物を積みますので、必然的にタイヤに負担がかかっています。普通の舗装された道路を走る分には全く問題はありませんが、少し鋭角に曲がる際には、タイヤに大きな負担がかかります。動いていてもタイヤに大きな負担がかかります。これを、動かない状況で、例えば車庫入れをしようとして、車が停止している状態でハンドルをぐるぐる回してしまうと、どうなると思いますか?タイヤは通常アスファルトと接地していますが、このアスファルトは熱が加わると柔らかくなる性質があります。特に昨今は地球温暖化で太陽の力も強く、熱くなっていますので、舗装によっては、タイヤでぐりぐりとアスファルトが彫れてしまう場合があります。これを、配送先の構内でやってしまい、アスファルトをぐちゃぐちゃにしてしまうという事故が、結構あります。この、車が動いていない状態で、ハンドルをぐるぐると回す操作を、「生ハンドル」と言います。
かつての同僚の例
かつて、タンクローリーで重油を配送していた時の事故をご紹介します。同僚は、熱いことでも有名な山形県のとある工場へ重油を配送に行きました。夏真っ盛り、お盆を過ぎた8月下旬でした。その敷地はいつもは余裕で取り回しができますが、その日はお盆過ぎのピークも重なって、あっちこっちにパレットの山ができていました。同僚はその山を避けて、重油のタンクにローリーをつけるべくハンドル操作をかなり大胆に行っていました。荷卸しを終え、変える道を見てみるとびっくり、構内のアスファルト舗装が、数か所ハンドル操作によってくちゃぐちゃになっていました。謝罪するも状況はひどく、同僚は車庫に連絡し、事故扱いとなりました。後日、配送先のアスファルトをすべてはがし、貼りなおすという、配送先に大きな迷惑をかけると同時に、大変時間と費用の掛かる、思いもよらない事故になってしまったのです。同僚は下車勤務になり、しばらくタンクローリーに乗ることを制限されてしまいました。その間収入が激減し、蓄えを切り崩して生活していたようです。
生ハンドル まとめ
トラックに乗っている時、運転手は常に荷物に対して神経を行き渡らせる義務があります。いかなる場合でも、荷物を積んでいる事を忘れてはいけません。そして、操作も同じです。急なハンドルや急なブレーキはもちろんですが、配送先に入ったらこの上ない緊張感を持ってトラックを操作しなければなりません。障害物や施設等、いつもとは違う状況も、もちろん発生してきます。それにきちんと対応ができてこそ、プロのドライバーと言えます。今回のように灼熱が照り付けている際には、特にハンドル操作に気を付けなければなりません。車が動いていない状態で「生ハンドル」を切ると、太陽で熱せられたアスファルトは簡単に姿を変え、すぐに破損してしまいます。いかなることがあろと、運転手はお客様である配送先に迷惑をかけることがあってはならないのです。